神戸地方裁判所 平成11年(行ク)9号 決定 2000年3月31日
申立人(原告)
巫阿渕
右訴訟代理人弁護士
豊島時夫
第一ないし第三事件被告
尼崎税務署長 大谷久仁雄
第二事件被告
国
右代表者法務大臣
臼井日出男
右両名指定代理人
宮武康
同
山本弘
同
西雅之
同
小林伸一
同
小田正典
右当事者間の頭書事件について、申立人から、別紙一及び二記載のとおり、文書提出命令の申立てがあったので、当裁判所は次のとおり決定する。
主文
本件申立てをいずれも却下する。
理由
一 申立人は、文書の所持者を被告尼崎税務署長(別紙一の平成一一年(行ク)第九号事件)及び大阪地方検察庁(別紙二の平成一一年(行ク)第二一号事件)として、平成二年二月六日幸田由紀子(申立人の娘、以下「幸田」という。)方において大阪国税局査察官が作成した現金預金有価証券等現在高検査てん末書(以下「本件文書」という。)の提出命令を求めた。申立人の主張する申立ての理由要旨は、以下のとおりである。
1 本件文書は、申立人が、刑事確定訴訟記録法四条三項、一項に基づき、文書の所持者に対し閲覧を求めることができる文書であり、民事訴訟法二二〇条二号に規定される文書に該当する。
2 本件文書は、収税官吏が、国税の課税権及び所得税法違反事実の有無など幸田と課税庁との法的関係を基礎づける資料として作成した文書であり、民事訴訟法二二〇条三号後段に規定される法律関係文書に該当する。
3 申立人は、本件において、株式の売買益について申立人と幸田との間で折半する約束があったとの事実を主張するものであるところ、本件文書は、幸田が占有、所持していた現金、預金通帳、配当通知書兼領収書の内容を示し、右事実を認定する情況証拠となり得るから、本件文書を書証として取り調べる必要性が高い。
二 判断
本件文書は、申立人自身について作成された現金預金有価証券等現在高てん末書(乙一五)と同様の形式の文書であると解されるところ、本件文書によって平成二年二月六日に幸田方に預金通帳、有価証券等が存在した事実が明らかになるとしても、同事実をもって原告が証明すべき事実として挙げる「株式等売買損益を原告と幸田が折半する約束をしていた事実及び重加算税賦課処分が違法である事実」を立証することにはならない。したがって、本件文書は、本案事件たる第一ないし第三事件において証拠調べの必要があるとは認められないものである。
したがって、本件申立ては、いずれも理由がないから却下することとして、主文のとおり決定する。
平成一二年三月三〇日
(裁判長裁判官 水野武 裁判官 田口直樹 裁判官 武宮英子)
別紙一
平成七年(行ウ)第四〇号(以下「四〇号事件」という) 所得税の更正処分等の取消請求事件
同 年(行ウ)第四二号(以下「四二号事件」という) 過誤納金還付等請求事件
同九年(行ウ)第二号(以下「二号事件」という) 所得税の更正処分等の取消請求事件
原告 巫阿渕
被告 尼崎税務署長
同(四二号事件) 国
文書提出命令の申立て
平成一一年六月一五日
右原告訴訟代理人 弁護士
豊島時夫
神戸地方裁判所 第二民事部 御中
申立の内容
一 文書の表示
平成二年二月六日幸田由紀子において大阪国税局査察官が作成した現金等現在高確認書又は現金等検査てん末書
二 文書の趣旨
前同日、前同所において前同査察官が原告の所得税法違反の嫌疑で、原告の娘である右幸田由紀子方を捜索差押をしたが、その際同所にあった現金、有価証券、配当通知書兼受領証等換金容易なものについてはこれを差押えず、原告と課税庁の租税債権、債務の調査資料とするため右幸田を立会わせて、同人又は原告が支配する現金等の存在を確認した際前記文書が作成された。
右幸田は不馴れなため、右文書の名称が右のいずれであるかについてはこれを十分に確認できなかった。
三 文書の所持者
被告(又はこれと同視すべき大阪国税局長、担当査察部)
四 証明すべき事実
前記日時、場所において幸田由紀子が占有、所持していた現金、預貯金通帳、配当通知書兼受領証等の内容によって株式等売買損益を原告と幸田が折半する約束をしていた事実及び重加算税賦課処分が違法である事実
五 文書の提出義務の原因
民事訴訟法第二二〇条三号後段
六 文書特定のための申出
前記二のとおり、現金等の確認に立会った幸田由紀子は不馴れなため一記載の文書名が、そのいずれであるかを確認していない。
確認の対象となったのは現金のみではなかったから、現金等現在高確認書であると思料されるが、右事情のため裁判所から右文書の所持者に必要に応じ当該文書の名称を明らかにするよう求められたい。
以上
別紙二
平成七年(行ウ)第四〇号(以下「四〇号事件」という) 所得税の更正処分等の取消請求事件
同 年(行ウ)第四二号(以下「四二号事件」という) 過誤納金還付等請求事件
同九年(行ウ)第二号(以下「二号事件」という) 所得税の更正処分等の取消請求事件
原告 巫阿渕
被告 尼崎税務署長
同(四二号事件) 国
文書提出命令の申立て
平成一一年一二月二二日
右原告訴訟代理人 弁護士
豊島時夫
神戸地方裁判所 第二民事部 御中
申立の内容
一 文書の表示
平成二年二月六日幸田由紀子方において大阪国税局査察官が作成した現金預金有価証券等現在高検査てん末書
二 文書の趣旨
前同日、前同所において前同査察官が原告の所得税法違反の嫌疑で、原告の娘である右幸田由紀子方を捜索差押をしたが、その際同所にあった現金、有価証券、配当通知書兼受領証等換金容易なものについてはこれを差押えず、原告と課税庁の租税債権、債務の調査資料及び所得税法違反事件の証拠資料とするため右幸田を立会わせて、同人又は原告が支配する現金等の存在を確認した際前記文書が作成された。
前記文書はその後大阪国税局長から原告の所得税法違反事件告発の際大阪地方検察庁に送致され、現在同検察庁において保管中とのことである。
三 文書の所持者
大阪地方検察庁
四 証明すべき事実
前記日時、場所において幸田由紀子が占有、所持していた現金、預金通帳、配当通知書兼受領証等の内容によって株式等売買損益を原告と幸田が折半する約束をしていた事実及び重加算税賦課処分が違法である事実
五 文書の提出義務の原因
民事訴訟法第二二〇条二号(刑事確定記録法第四条三項、一項)、同条三号後段
六 文書の提出義務の補充説明
原告の所得税法違反事件(一審大阪地裁平成二年(わ)第三六二三号)では、査察着手の際右幸田方で作成されたと同様の原告立会いのてん末書(表紙のみ添付)が検察官から証拠として裁判所に提出されている。右幸田方でのてん末書は検察官の立証には不要なものとして裁判所に証拠として提出されなかったものと思料される。
以上
<省略>